年齢を重ねると、身体のさまざまな部分に変化が起こります。
もちろん、お口の中も例外ではありません。
歯や歯ぐきだけではなく、唾液、顎の骨、咀嚼筋、口腔粘膜、感覚など、口腔内のさまざまな組織や機能に変化がみられます。
こうした変化に、歯周病やむし歯、歯の喪失、全身疾患、薬剤の副作用などが重なると、咀嚼や嚥下などの口腔機能が低下することがあります。日本歯科医師会でも、高齢者では加齢だけでなく、疾患、薬剤、低栄養、廃用などさまざまな要因が口腔機能に影響するとしています。
今回は、高齢者のお口に起こりやすい代表的な加齢変化をまとめてみます。
口腔領域の主な加齢変化
高齢者の口腔内では、次のような変化がみられることがあります。
- 歯の喪失
- 顎関節部の変化
- 口腔粘膜の変化
- 顎骨・歯槽骨の変化
- 咀嚼筋の機能低下
- 唾液分泌・口腔乾燥の変化
- 口腔内の感覚機能の低下
- 歯肉退縮
- セメント質の肥厚
- 咬耗
- 下顎角の変化
- 咬合力の低下
- 歯髄腔の狭窄
- 第二象牙質の形成
- 顎堤吸収
いっぱいありますね。
それぞれ、簡単に見ていきましょう。
1.歯の喪失
高齢になると、長年のむし歯や歯周病などによって歯を失う人が増えてきます。
歯を失うと、当然ですが噛む機能(咀嚼機能)に影響します。
特に奥歯を失うと、硬いものが噛みにくくなり、食べられる食品が限られてくることがあります。
また、歯を失うことで、歯だけではなく、
- 咀嚼機能
- 咬合
- 顔貌
- 発音
- 食事の楽しみ
などにも影響することがあります。
ただし、「高齢になれば必ず歯を失う」というわけではありません。
現在は8020運動などもあり、高齢になっても多くの歯を残している人が増えています。
歯を失わないための予防と、失った場合の適切な補綴治療が重要です。
2.顎関節部の変化
顎関節にも加齢に伴う変化がみられることがあります。
関節円板や周囲の組織では、弾性などの性状が変化することがあります。
ただし、顎関節の変化には個人差があり、加齢変化がそのまま「顎関節症」を意味するわけではありません。
「年齢のせいだから」と決めつけるのではなく、痛みや開口障害などの症状がある場合には診察が必要です。
3.口腔粘膜の変化
加齢に伴って、口腔粘膜にも変化がみられます。
粘膜の弾性や組織の性状などが変化し、外部からの刺激に対して敏感になったり、傷つきやすくなったりすることがあります。
特に高齢者では、
- 入れ歯による刺激
- 口腔乾燥
- 粘膜の傷
- 低栄養
- 全身疾患
- 薬剤
などが重なって、口腔内のトラブルにつながることがあります。
そのため、義歯を使用している方では、義歯の適合状態や粘膜の状態を定期的に確認することも大切です。
4.顎骨の萎縮・歯槽骨の吸収
歯を支えている歯槽骨は、歯を失うと徐々に吸収していきます。
特に歯がなくなった部分では、歯を支える必要がなくなるため、顎堤が徐々に変化します。
これが、いわゆる顎堤吸収です。
顎堤が吸収すると、
「昔はぴったりだった入れ歯が合わなくなってきた」
ということもあります。
義歯が合わなくなると、痛みだけでなく、噛みにくさや食事量の低下につながる可能性もあります。
そのため、入れ歯を使用している高齢者では、「入れ歯が使えているか」だけではなく、「きちんと噛めているか」も重要です。
5.咀嚼筋の機能低下
年齢を重ねると、全身の筋力が低下するのと同様に、咀嚼に関わる筋肉の機能も低下することがあります。
さらに、
「歯が少なくなった」
「硬いものを食べなくなった」
「柔らかいものばかり食べる」
といった生活が続くと、口腔機能がさらに低下していく可能性があります。
日本歯科医師会でも、歯を失って硬いものが噛めなくなり、柔らかいものばかりを食べることで、さらに口腔機能が低下するという悪循環が紹介されています。
つまり、
噛めない
↓
硬いものを食べなくなる
↓
口腔機能を使わなくなる
↓
さらに噛む機能が低下する
という悪循環に注意が必要です。
6.唾液分泌量の低下・唾液の粘稠化
高齢者のお口で、特に注意したいのが口腔乾燥です。
唾液は、
- 食べ物をまとめる
- 飲み込みやすくする
- 口の中を洗い流す
- 粘膜を保護する
- むし歯を防ぐ
- 口腔内の環境を保つ
など、さまざまな役割を持っています。
唾液が減ると、口の中がネバネバする、舌が乾く、口臭が気になるなどの症状が出ることがあります。
さらに、口腔乾燥が進むと、むし歯や歯周病のリスクが高まったり、痛みによって食事や会話に影響したりすることがあります。
ただし、ここは注意が必要です。
唾液が減る原因は、加齢だけではありません。
薬剤、疾患、脱水、ストレスなど、さまざまな要因が関係します。
そのため、
「年を取ったから仕方がない」
と諦めず、口腔乾燥が気になる場合は、歯科医院などに相談することが大切です。
7.感覚感受性の低下
年齢を重ねると、口腔内の感覚機能にも変化がみられることがあります。
食べ物の温度や硬さ、口の中に食べ物が入っている感覚などを感じにくくなることがあります。
こうした感覚は、食べ物を適切に処理したり、飲み込んだりするうえでも重要です。
ただし、感覚の低下には加齢だけではなく、神経疾患などさまざまな要因が関係します。
「最近むせることが増えた」
「食べ物を口に入れていることに気づきにくい」
などの変化がある場合には、単なる加齢と決めつけないことが大切です。
8.歯肉の退縮
年齢を重ねると、歯肉が下がり、歯の根元が露出してくることがあります。
これが歯肉退縮です。
歯肉が退縮すると、歯の根元にある象牙質やセメント質が露出しやすくなります。
すると、
- 知覚過敏
- 根面う蝕
- 歯の根元の磨耗
などにつながることがあります。
日本歯科医師会も、歯ぐきが下がることや唾液の減少など、加齢に伴う口腔環境の変化によって根面う蝕のリスクが高くなることに注意を促しています。
高齢者のブラッシングでは、歯冠部だけではなく、露出した歯根面を傷つけないようにケアすることも重要です。
9.セメント質の肥厚
歯根の表面を覆っている組織がセメント質です。
セメント質は、加齢に伴って厚くなることがあります。
特に根尖部では、その変化がみられることがあります。
セメント質が厚くなると、歯根の形態が若い頃とは少しずつ変化していきます。
歯科治療やエックス線写真を見る際にも、こうした加齢変化を知っておくことは大切です。
10.咬耗
長年、食事をして歯を使い続けることで、歯の表面には少しずつ咬耗がみられることがあります。
咬耗とは、上下の歯が接触することなどによって歯質がすり減ることです。
加齢によってみられることがありますが、咬耗の程度は人によって大きく異なります。
また、単純な加齢だけではなく、
- 強い噛みしめ
- 歯ぎしり
- 咬合習癖
- 食習慣
なども関係します。
そのため、強い咬耗がみられる場合は「年齢のせい」とだけ考えないことも重要です。
11.下顎角の鈍角化
下顎骨の形態も、加齢や歯の喪失などによって変化します。
特に歯を失って咀嚼機能が低下すると、咀嚼筋や顎骨にも変化が起こり、下顎の形態が若い頃とは変わってくることがあります。
そのひとつとして、下顎角が鈍角化することがあります。
ただし、これは単純に「年齢だけ」で決まるものではなく、歯の喪失や筋機能など、さまざまな要因が関係します。
12.咬合力の低下
高齢になると、咬合力が低下することがあります。
ただし、
「高齢者だから咬合力が低い」
とは限りません。
残っている歯の本数や咬合状態、義歯の有無、咀嚼筋の状態、全身の筋力など、さまざまな要素が関係します。
特に、
歯を失う
→ 噛みにくくなる
→ 硬いものを食べなくなる
→ 口腔機能が低下する
という悪循環には注意が必要です。
だからこそ、高齢になってからも**「噛める状態」を維持すること**が重要になります。
13.歯髄腔の狭窄
歯の内部には、神経や血管が入っている歯髄腔があります。
加齢とともに、第二象牙質などが形成されることで、歯髄腔が徐々に狭くなることがあります。
若い頃と比べると、エックス線写真でも歯髄腔が小さく見えることがあります。
これは歯科治療にも関係する重要な変化です。
例えば、根管治療などで歯の内部を処置する場合、歯髄腔が狭くなっていると、治療が難しくなることがあります。
14.第二象牙質の形成
歯は、一度できたらまったく変化しないわけではありません。
歯髄側では、生涯にわたって象牙質が形成されることがあります。
これが第二象牙質です。
その結果、年齢とともに歯髄腔が狭くなっていきます。
ただし、第二象牙質の形成は加齢だけではなく、刺激などによっても促進されることがあります。
つまり、
「歯の中でも、年齢とともに少しずつ変化が起こっている」
ということです。
15.顎堤吸収
最後は、先ほどの歯槽骨の変化とも関係する顎堤吸収です。
歯を失うと、その部分の歯槽骨は徐々に吸収され、顎堤の形態が変化します。
特に総義歯を使用している方では、顎堤の形態変化によって、以前は合っていた義歯が合わなくなってくることがあります。
「入れ歯が痛い」
「入れ歯が動く」
「以前より噛めなくなった」
という場合には、我慢して使い続けるのではなく、歯科医院で調整してもらうことが大切です。
高齢者の口腔内では「加齢+さまざまな要因」で変化する
ここまで、15項目に分けて説明しました。
でも実際には、
加齢だけが原因で口腔機能が低下するわけではありません。
例えば、
- 歯周病
- むし歯
- 歯の喪失
- 義歯の不適合
- 全身疾患
- 薬剤の副作用
- 低栄養
- 筋力低下
- 活動量の低下
- 口腔乾燥
などが複雑に関係します。
だからこそ、高齢者の口腔内を見るときには、
「年齢だから仕方ない」
で終わらせないことが大切です。
「年齢のせい」で見逃さないことが大切
例えば、
「最近、硬いものが噛みにくい」
「食事に時間がかかるようになった」
「食べこぼしが増えた」
「むせるようになった」
「口が乾く」
「滑舌が悪くなった気がする」
といった変化。
これらは、単なる老化現象として片付けてしまいがちです。
しかし、こうした小さな変化が重なってくることは、オーラルフレイルのサインである可能性があります。
日本歯科医師会では、滑舌低下、食べこぼし、むせ、噛めない食品の増加、口腔乾燥などをオーラルフレイルの始まりとして紹介しています。早めに気づき、適切な対応をすることで改善が期待できる場合もあります。
高齢者だからこそ「口腔機能を使う」ことが大切
高齢になると、
「硬いものは危ないから、柔らかいものだけ」
「入れ歯だから仕方ない」
と、食べやすいものばかりを選んでしまうことがあります。
もちろん、安全に食べられることが最優先です。
そのうえで、現在の口腔機能に合わせて、噛む・話す・飲み込むといった口の機能をできるだけ維持することが重要です。
定期的な歯科受診、適切な口腔ケア、義歯の調整、バランスのよい食事、口腔体操なども、口腔機能を維持するための方法になります。
まとめ
高齢者のお口では、
- 歯の喪失
- 歯肉退縮
- 顎骨・顎堤の変化
- 咀嚼筋の機能低下
- 咬合力の低下
- 唾液や口腔乾燥の変化
- 口腔粘膜や感覚の変化
- 歯髄腔の狭窄
- 第二象牙質の形成
- 咬耗
など、さまざまな変化がみられます。
こうした変化そのものは、年齢を重ねることで起こり得るものです。
しかし、
「年齢だから仕方がない」
と諦めてしまう必要はありません。
歯をできるだけ残すこと、入れ歯をきちんと使える状態にすること、口腔内を清潔に保つこと、そして噛む・話す・飲み込む機能を維持すること。
こうした日々の積み重ねが、いつまでも自分の口で食べることにつながります。
「最近、噛みにくくなった」「むせることが増えた」「口が乾く」など、小さな変化に気づいたら、それを年齢のせいだけにせず、歯科医院などに相談してみることをおすすめします。

